≪予告篇の音量適正化委員会の経過報告並びに推奨値に関しての説明≫

  • 社団法人映画産業団体連合会
  • 予告篇等音量適正化委員会
  • 委員長 八木信忠

1、これまでの経過と解説

予告篇の音は本編に比べて大きいと言う声はかなり前から聞こえておりました。起因するところは一昔前テレビのCMの音は番組に比べて大き過ぎるという問題が生じましたが、これと同じだとおもいます。他社より少しでも大きい音をという競い方からこのような結果が生み出されたのでしょう。日本の興行界では予め映画館で予告篇の再生音量を絞って上映することが日常化しており業界人をはじめ一般の観客も、予告篇音量の大き過ぎる問題を身近に感じていない傾向があります。一方米国の場合には再生音を興行側でコントロールする習慣が無く、騒々しい大音量の予告篇が社会問題化されました。また予告篇の音量に本編も合わせるため、本編が小音量で上映されてしまったなどの問題も報告されています。すでにアメリカでは1998年からTASAという団体を立ち上げここの検査を通過しない作品は映画館では上映しないという取り決めを行っています。映倫並みの権限が付与されているのです。今回の映団連の取り決めはそこまで厳しくせず、推奨値を示すということで第一歩を踏み出すことになりました。それぞれの担当者は自覚を持って『推奨基準』を守って頂きたいと思います。

2、推奨値の説明

では推奨値の内容について若干の説明をいたします。まず『最大の音量の値』と前述しましたがこの語句は大変誤解を招きやすいので使うべきでなかったかとも思います。この言葉だと映画関係者なら思い浮かぶのが録音機についている音量計の針の振れでしょう。大きい音量の音が来ると針が右に大きく振れます。これを即今回の規定に当てはめて針を余り振らせないようということと勘違いされては困ります。今回の取り決めは『うるさい』または『うるささの値』というべきでしょう。ですから前述した『最大の音量の値』という語句は『最大のうるささの値』と訂正されるべきです。このうるさい音の定義はちょうど降雨量と同じと考えても良いと思います。雨の場合「何ミリ/時間」と表示することが多いと思います。つまり1時間に何ミリ雨が降ったかということで雨量を表示します。雨の場合ある瞬間は滝のごとく降り、あるときはしとしとと降るという状況もあります。しかし表示の時は1時間に何ミリ降ったかということで表します。予告篇の音の測り方もこれと同じです。ある時は大砲の音、またある時は鈴虫の音と瞬時瞬時の音圧は大きく変化します。これを予告篇の初めから終わりまですべての音の音圧をため込み平均して値を算出するという方法をとります。ですからどんなにバカデカイ爆弾の破裂音があっても構わないのです。その後がそのばかでかい音を償う無音か極めて小さい音の部分があれば構わないのです。しかし始めから終わりまでバカデカイ音が鳴りっぱなしなら『うるさい』と判定されてしまいます。推奨値に使われる『Leq』という単位はこのような『うるささ』を計測する時に使われるものです。

3、Leqとは

LeqとはEquivalent continuous sound level のことです。難しく言えば「ある時間内で変動する騒音のレベルを平均化して表示する」ということです。前項で降雨量の例を示しましたが、具体例に言えば70Leqと表示されたとすると測定する騒音は90デシベルになったり60デシベルになったり変動するが測り始めから終了するまでの平均値は70デシベルであったということで、これを70Leqと表示するのです。今回の推奨値は85Leqという値ですが、これは予告篇の初めからは測り始めてその予告篇の終了までに出ている音量の平均値が85デシベルを越えないことという値です。Leqの後の(m)は映画用の補正回路によって測定したとの意味を表すものです。この補正回路は人間の聴覚と一致するよう物理的値(音圧)を補正することを意味します。たとえば100Hzは2000Hzに比べて-25.4デシベルも音圧によって発生する電圧を減じて測定しますがこれは人間の感覚に適合するよう工夫されたものです。

4、具体例

ではこれから85Leq(m)の推奨値に適合した音声トラックとオーバーしてしまっているものをお聞かせ致します。

5、大きい音を出しながら推奨値適合の予告篇を作るには

以上のことから推奨値適合の予告篇を作るには担当録音技師の問題だけではないことがおわかり頂けたと思います。お聞かせした適合値をオーバーしたものを適合値にしようと思えば全体にレベルを下げれば良いのです。しかしそれでは迫力がなくなってしまいます。よって演出を担当する人、編集音付けの人の協力がなければ迫力の無い貧弱な音響表現しかできないのです。最初から最後まで大きい音が鳴りっぱなしという構成演出方針で作り推奨値に適合するよう録音すれば、全体のレベルを下げざるを得ないことになり、大きく聞かせたい音も大きくならないということを記憶しておいて下さい。大きい音を聞かせたいなら静かな部分も作る。昔から言われていたことですが思い出して下さい。

6、本編と同じ音量を出すために

本編と同じ音量が記録されていれば上映に際して映写技師が音量調節する必要がありません。このためには何を基準にすれば良いでしょうか。この基準は「せりふ」「ナレーション」の音量を基準にすべきでしょう。予告篇でも本編でもアナログトラックでもデジタルトラックでも再生されるせりふの音量は同じであってほしいのです。これが一致していれば後はそれぞれのトラックのダイナミックレンジを有効に使って表現すればよいのです。

7、録音再生レベルの流れ

録音再生レベルの流れを図で示すと以下のようになります。

録音再生レベルの流れ

8、Leq測定は観客席で計測しない

この予告篇の音量問題は観客の苦情から発生したものです。観客に障害を与えない音量というところから出てきた問題です。よって劇場の観客席で測定するのが本来のやり方です。しかし劇場の観客席で測るのでは条件設定が難しく、よって本推奨値では映写機のアンプのシネマプロセッサーのハウスイコライザーの前段の出力(※(1))ダビングの時はミキシングコンソールの出力(※(2))を測定することとしその値を推奨値(Leq値)としています。映画館がISO2969及びドルビーシステムに則り調整されているという前提条件を満たしているという考えからです。

9、光学録音所ごとに録音レベルが違うのではないか

予告篇を作っている録音所ごとに録音レベルが違うのではないかという心配があります。皆様にお話しする前に主な各録音所にお願いして同じレベルで録音していただきそれを再生チェックしました。結果は問題がありませんでした。アナログの場合若干の補正が必要となる場合がありますが、その時は適切に対処して下さい。

10、再生チャンネルを増やすごとにLeq測定器の読みはどう動くのでしょうか

上記の問題は以下のとおりです。全チャンネル一斉最大音量という音響表現の場合は留意して下さい。

Leq(m)メーターDolby Model 737 測定テスト (実測値)
(Calibration 1kHz L,C,R,SW,=85dB/Ls,Rs=82dB)
入力チャンネル 0VU ピンクノイズ 0VU 1kHz
L 84Leq(m) 79Leq(m)
L+C 87Leq(m) 82Leq(m)
L+C+R 89Leq(m) 84Leq(m)
L+C+R+LS 89Leq(m) 84Leq(m)
L+C+R+LS+RS 89Leq(m) 85Leq(m)
L+C+R+LS+RS+SW 90Leq(m) 85Leq(m)

この結果からもわかるように5チャンネル全部OVUの出力なら90Leq(m)となります。

11、ダビングルーム、試聴試写室のモニターの音量

ダビングルーム、試聴試写室のモニターの音量、音質はISO 2969(音質)準拠し調整されており、ミキシングコンソールOVUで音量は85dBなっていることが望ましい。仕上がった素材をまずは一般のお客と同じ音量でミクサーは聞いておかなければなりません。

12、適正値のフィルム上のマーク及びダビングレポートについて

しばらくの間、推奨値で録音した予告篇と旧来のものとが混在する期間がどうしても発生します。何らかの形で映写技師の皆様と配給関係、ラボ関係の皆様の間でコミュニケーションを図る方法が必要です。よって下記のようなシステムを提案します。ネガ編集者、ラボ関係者、そして終わりに録音関係者、映写技師さんに少々お手間を取らせますが、良い音を観客に提供するためが目的なのでお許し下さい。

記(案) 04.6.9現在
a、編集済のネガの巻頭リーダーの巻頭部白み側に推奨値である表示を3こま接続すること。

表示文字例

※素抜けフィルムに水性ボールペン、マーカーで書く。または焼き込まれた巻頭リーダーを作成し使用する。スタンプ等も可(鉄板用インクを使用)色は黒色を使用。

b、制作に携わったダビングスタジオ、光学録音所は、作業の流れに従って諸事項を記入の上、ダビングレポートをフィルムと共に次の作業者に送らなければならない。制作担当者は推奨値に適合していることを確認の上、ネガ編集者に巻頭リーダーにaに示した表示を書くことを要請する。

c、ダビングレポートの書式は日本映画テレビ技術協会のホームページに掲載しているので、ダウンロードして使用することができる。

13、映画館責任者及び映写技師の皆様へのお願い

しばらくの間は7月1日以前に録音した旧タイプのものと7月1日以後録音した適正値の予告篇が混在する時期があると思います。12項で示したマークが記されていると思いますので上映に際し、音量調節をよろしくお願い致します。

終わりに
予告篇製作者及び関係者の全員の協力がなければ成功しません。ご協力をお願いします。